本研究の目的

本研究では、腎臓の近位尿細管の広汎な輸送機能障害をともなうファンコニ症候群 (以下FSと表記) について発症機構の詳細を解明し、その予防法について研究を行います。

ファンコニ症候群とは

ヒトの腎臓は100万個ものネフロンと呼ばれる機能単位からなります。ネフロンは血液濾過装置である腎小体と、それに続く尿細管からなります。腎小体に続く近位尿細管は、尿細管のなかで最も枢要な部位であり、電解質や水のほか栄養素として必須なブドウ糖やアミノ酸などが再吸収されます。FSは、近位尿細管の全般性な輸送機能障害であり、本来近位尿細管で再吸収されるはずのさまざまな物質が再吸収されずに尿中へ喪失することによっておこる疾患群です。

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通常は血液が糸球体でろ過されて尿細管に運ばれたのち、必要な成分は再吸収、不要なものは尿として排出されます。

y2 ファンコニ症候群の詳細について

症状

リンの再吸収障害による喪失や、ビタミンDの活性化障害によって骨の石灰化が障害されます。その結果、小児の場合にはくる病、成人では骨軟化症が認められます。また、ブドウ糖やアミノ酸などエネルギー代謝や成長に必要な栄養素の再吸収障害による喪失によって成長障害が認められます。その他、代謝性アシドーシス、電解質異常、脱水などの症状が見られます。

病因

病因は先天的なもの、後天的なものがあり、各々さまざまな原因によって発症します。先天的なFSには、Dent病、Lowe症候群などが含まれ、それぞれCLCN5 (塩素イオンチャネル遺伝子) やOCRL1 (脱リン酸化酵素遺伝子) などの原因遺伝子が特定されています。FSの原因となる遺伝子は単一でなく、その他にもFSに関わる遺伝子が特定されています。また、後天的なFSには、重金属 (カドミウム、白金など) や薬剤 (抗がん剤や抗生物質、あるいは漢方薬に含まれるアリストロキア酸) などによって発症するものが知られています。

予防・治療

FSに対する治療は病因によって異なり、放置すると慢性腎不全などに至ることがあります。後天的なFSの場合、早期に薬剤投与などを控えるとともに、対症療法によって尿細管から喪失したリンやカリウムなどの電解質などを補充します。

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本研究の課題

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FSは多様な要因によっておこる広汎な近位尿細管の機能障害であり、先天的要因によるものばかりでなく、薬物投与など後天的要因によっても発症することが特徴です。したがって、その発症に至る分子機構も一様ではないと考えられます。

本研究では、FSの疾患モデルマウスや近位尿細管由来細胞を材料にして、生化学的、組織学的、電気生理学的な手法を用いて、FSが進行して腎不全に至る前段階の個体や組織の段階的な変容を明らかにし、FSの予防・治療法についても検討を進めます。

まず、薬剤性のFS疾患モデルマウスを作製し、近位尿細管の細胞特異的な毒性の発現機序を明らかにします。

また、FSが広汎な近位尿細管の輸送障害・機能障害をもたらすことから、トランスポーターやその機能を支持する足場タンパク質や細胞骨格タンパク質の発現変化について疾患モデルマウスや培養細胞を用いて検討し、FSの原因遺伝子産物であるタンパク質の細胞内での挙動を明らかにします。

さらにこのような疾患モデルを用いて予防効果や治療効果を示す候補化合物の探索を実施します。

transporter(A, B, C)

細胞膜上の多くのtransporter(A, B, C)は、複数のPDZドメインを含む足場タンパク質(NHERF)と結合します。さらに足場タンパク質は、アダプター結合タンパク質であるezrinと結合して細胞骨格に固定されます。足場タンパク質やアダプター結合タンパク質が欠損すると、複数のトランスポーターの機能が欠損するというファンコニ症候群に似た症状が観察されます。

プロジェクトメンバー

浅野 真司

薬学部・薬学科・教授浅野 真司

Shinji Asano

藤田 典久

薬学部・薬学科・教授藤田 典久

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波多野 亮

薬学部・薬学科・助教波多野 亮

Ryo Hatano

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